中国株暴落の犯人

激震・中国株 元凶は信用取引の暗部 レバレッジ10倍の悪夢

2015/7/9 19:44




【NQN香港=竹内冬美】大揺れが続く中国株市場。ここ1カ月の相場急落で、市場参加者の8割を占める個人投資家のほとんどは損失を抱えている。売りが売りを呼ぶ展開の発火点となったのは、株式を担保に資金を借り入れて投資資金を膨らませる信用取引の暗部だ。
 中国株の変調は、信用取引を巡る悲劇のニュースから始まった。6月10日、鉄道車両最大手の中国中車の急落で損失を被った32歳の男性が自殺したとの報道が国内外を駆け巡った。当局は動揺を抑えるために信用取引の規制に動き、「報道はデマ」と釈明する異例の対応をした。
 信用取引は、手元資金が乏しい個人でも多額の投資資金を確保できるのが特徴。中国の個人投資家は、政府の掲げる株高政策を信じ、信用取引に飛びついた。信用取引向けの融資額は、半年で2倍超に膨らみ、6月18日には2兆2666億元(約44兆円)に達した。好調な信用取引業務を拡大するために、中国の証券会社は資金調達を急いだ。中国証券大手の華泰証券は6月、香港市場に上場。中信証券は増資に踏み切った。
 ただ、信用取引で個人が担保として預けた銘柄の価格が下落すれば、個人は担保を追加(追い証)するか、借り入れを返済(強制決済)しないといけない。6月上旬から相場が崩れ始めると、個人が返済資金を確保するために保有株を投げ売った。中国の信用取引は決済までの期間が6カ月で、融資を受けた場合は相場水準に関係なく資金を返済しなければならない。信用期日の到来による売りもあふれたとみられる。
 中国の信用取引は大きく分けて2つある。1つは、証券当局が監督する信用取引だが、これを懸念する声は少ない。「(元金に対してどれだけ運用資金を膨らませているかを示す)レバレッジ比率が低く、取引銘柄は数百社のみ」(藍沢証券投資リサーチセンターの柳林氏)であるためだ。保証金維持率は6月26日時点で247%と、強制決済の基準である130%を大きく上回る。「追い証のリスクは極めて限定的」(みずほ証券アジア)という。
 今回の相場かく乱の元凶となったのは「場外配資」と言われるもうひとつの信用取引で、暗部も含まれる。個人は監督の目をくぐり抜けて、小口貸付会社やオンライン融資会社、信託会社などに少額の資金を納め、その3~10倍の投資資金を高い利率で借り入れて、値動きのいい中小型株に投資する。実質的にレバレッジ比率は正規の信用取引を大幅に上回り、仮にレバレッジ10倍の場合で、株価がおよそ1割下げると元本が吹っ飛ぶ計算になる。この場外配資の利用急増が深圳のベンチャー企業向け「創業板」指数が急伸する原動力となった。
 場外信用取引最大の「恒生HOMS」については、証券監督管理委員会が6月29日、「融資残高は4400億元でレバレッジ比率は3倍」と公表した。公式な統計がないため把握が難しいが、その他業者も合わせた全体での残高は2兆~3兆元にのぼるとの見方がある。
 ストップ高が続出した創業板市場への投資で膨大な利益を得てきた個人。表面化してはいないが、5~6月に証券当局が「場外配資」の規制強化に動いたとされ、ここから風向きが変わった。融資会社がレバレッジ比率の引き下げや資金の回収に迫られたが、個人は流動性が乏しい中小型株を売れず、株価指数先物の売りでのヘッジを余儀なくされた。それが株安に拍車をかけるという悪循環に陥った。
 前日までに創業板は6月3日に付けた過去最高値から約4割、上海総合指数は6月12日の年初来高値から3割超下落した。そのため、場外信用取引のレバレッジ解消が一巡したとされる。証券当局が監督する信用取引の融資残高も急減している。7月は、8日までの6営業日で5886億元減少。4、5月の2カ月間での増加分に匹敵する額だ。残高は1兆4500億元と、3月25日以来の水準まで低下した。
 中国の信用取引の歴史は浅く、2010年3月に始まったばかり。これまで中国株は長期低迷していたため、今回が制度の整備後に初めて経験する乱高下相場だ。焦った当局は7月に入り、これまでの姿勢から一転して信用取引の緩和に踏み切った。130%の保証金維持率の基準を撤廃したほか、口座に直近20日間平均で50万元の資産がなければならないという条件もなくした。中国人民銀行(中央銀行)は、銀行に対する信用取引関連の株式担保融資の規制を緩めた。制度が未熟なまま、当局は再び信用取引を拡大しようとしている。